クロエマーシーミニショルダー
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null 保憲がそれに気づいたのは、まったくの偶然だった。通っていた女房の一人に別れの歌を贈ってきた帰り道、たまたま聞こえてきた笛の音に誘われて近づいたのだ。  女がやろうとしていたことを保憲はすぐに理解した。そして興味をかき立てられた。忠行が今の保憲の姿を見たら、悪い癖だと顔をしかめたことだろう。 「ふむ、こちらはまずいか」  袍の袖口を唇に押しあて、保憲は風上へと回る。破れた唐塀の隙間から、女の姿がはっきりと見えた。武士らしき男たちが、ちょうど二人ばかり逃げ出していくところだ。女に向けて放たれた矢が、すり抜ける様子もはっきりと見えた。時折、笛を吹く手を休め、女が笑う。  そのとき、地上に残された武士の一人が、新たに弓を構えるのが見えた。  狙っているのは、塔の上に立つ女ではなかった。女の背後にある篝火だ。  男の位置からはかなりの距離があったが、放たれた矢は正確に篝火の中央を射抜いた。  台座ごと撃ち倒されて炭が飛び散り、炎が消える。  それに気づいた女が、あっ、と短い悲鳴を上げた。 「——そこか」  武士が再び弓を構えた。その鏃は、今度こそ塔の上に向けられている。  ただし先ほどまで女が立っていた塔ではない。それよりもわずかに下方にある、なかばから折れた低い塔だ。先ほどよりも一回り小さく見える女の姿が、その塔の上に移っている。  女があわてて飛び降りようとする。だが武士の弓が早かった。  屈みこんだ女のすぐそばで、布地と肉が裂ける音がした。  女は今度は悲鳴を上げなかった。ただ音もなく落下する。  いかんな、と保憲は独りごちた。思わず袍の袖口を手が探っている。 「追え」  女を射落とした武士が叫び、それまで呆然としていたほかの男たちが、あわてて女が落ちた場所へと駆け出した。その直後、